私の中にあるもの 7

「うん、夜勤だから夕食のことをね」
「千崎さんってまめですよね、昼も作ってあげてるんでしょ?」
と体をこちらに寄せて声を潜めた。
「大したことないわよ。自分のお弁当のついでだもの。」
「いやいや、お弁当がついででしょ?冷凍庫にいっぱいおかずのストックしてるって、高瀬さんから聞きましたよ。」
高瀬は裕二の友達で宏美の彼氏でもある。半年ほど前に、裕二の専門学校時代の友達に頼まれて、私の会社の知り合いを集めて合コンをしたのをきっかけに、高瀬と宏美はつきあい始めた。
「ストックって余り物冷凍してるだけよ。」一応仕事中、こちらも声を潜める。
「いやいや千崎さんは完璧って裕二さんもいつも誉めてるみたいですよ。おかげでちょっとは千崎さんを見習えとか料理を習ってこいとか言われて大変なんですから。」
「私でいいんなら料理くらいいつでも教えてあげるわよ。」と体をパソコンに向けて作業を再開した。
「うーん、教えてくれるより、お裾分けを持ってきてほしいですね。」
冗談とも本気ともつかないようなことを呟きながら宏美も仕事を再開した。
家事に関しては、一緒に暮らし始めてからも、ほとんど私がこなしている。裕二は一人暮らし歴も長く、料理以外の家事もできるようだが、私の体調が悪いときや残業続きの時以外、敢えてしようとはしないし、私から手伝ってほしいと頼むこともない。
書類作成に没頭しているとあっという間に終業時間が過ぎていたようだ。だいたい目処がついたなと隣を見やると、宏美がパソコンを終了させているところだった。
「千崎さんはまだ帰らないんですか?」
「これ作りあげて明日提出しないといけないからね。」
とパソコンを指さした。
「さっき頼まれてた分ですね。」
宏美はパソコンを閉じて立ち上がった。
「今日もデート?」
「違いますよ、高瀬さんは仕事忙しいらしくて。そうそう、今度また4人で遊びましょうね!千崎さんの手料理を食べる会ってどうです?」
「それ楽しい?」
「千崎さん以外は幸せ味わうことができると思いますよ。」
私は眉をひそめて「何よそれ、私の楽しみは?」
と突っ込んだ。
宏美は一瞬考えるように視線を上にしたが、すぐ、にかっと笑った。
「じゃ、おいしいワインでどうです?」
「あっいいかも!」
私も釣られて口が緩んでしまった。
「交渉成立。本気ですからね。また高瀬さんにも言っておきます。」
失礼しますと挨拶しながら、ロッカーの方へ小走りに去っていく宏美を見送ってから、再びパソコン画面を見た。
最も手の掛かる部分を完成させていたから、手は緩むことなくキーを打ちながら、頭では宏美の提案した集まりのためのメニューを考えていた。

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