私の中にあるもの 15

その日は私も裕二も早い帰宅で、朝から煮込んでおいた肉じゃがが主菜の夕食を一緒に食べた。
裕二にしては遅い箸運びにまだ酔いが残っているのかと尋ねると、
「昨日は飲み過ぎた。」
と決まり悪そうに答えた。
「どれくらい飲んだの?」
「生中2杯の後に焼酎4、5杯・・かな。最後の方あんま覚えてない。」
一般的には全く飲み過ぎとは言えない酒量だが、裕二にとっては悪酔いするには十分だった。
「覚えてないって、寝ちゃったの?」
「んー2軒目、カラオケで寝てたよ。」
裕二が酔うととにかく寝てしまうことは、仲間内ではもちろん、職場でも周知のことらしく、例えカラオケの部屋でずっと寝ていたとしても、適度に放置していてくれているようだ。
「よく無事で帰って来れたね。タクシー?」
「駅に向かおうとしたら、山口さんにタクシーに押し込まれたよ。」
「そりゃ、電車はまずいでしょ。」
山口さんというのは裕二の職場の先輩だ。いつもならカラオケのあとに山口さんのスナックに連れて行かれるところだが、昨日はさすがに無理と判断されたらしい。
玄関で座り込んでいた昨夜の裕二を思い出す。帰宅した後のことは覚えているんだろうか?
今朝は、裕二も普段の用意にシャワーが加わり、かなり慌てていたので、ほとんど会話もなく家を出ていたから、昨日一緒にベッドで横になった後に私が抜け出たことに気付いたかどうか、確かめることはできていない。
昨晩、行為のあとしばらく余韻に浸ってから寝室に戻ると、裕二は静かな息でよく眠っているように見えた。私がベッドを抜けてしていたことに気付いているとは思えなかったが、全く目覚めず熟睡していたということを彼自身の口から確認したかった。
「玄関で座りこんでたの覚えてる?」
できるだけ軽くからかう口調で尋ねてみる。
「覚えてるよ。」
「なんだ覚えてんだ。すぐ寝ちゃったから無意識のご帰還かと思った」
「そりゃ半分寝てたようなもんだけど、記憶はあるぞ。」
「ふーん。」
めいっぱい笑いを含ませて裕二の顔を覗き込むと、彼はばつの悪い表情を隠すように、汁碗を持って一気に味噌汁を飲んだ。
「そうだ、高瀬が理絵の料理食べに来たいってメールあったぞ。」
「うん、宏美ちゃんが言い出したんだけど。もう連絡あったんだ?」
今日のお昼に裕二に聞いておくと宏美に言っておきながら、すっかり忘れていた。
「いつがいいかな。」
「料理用意するんなら、土曜日がベストかな?なんかいいワイン持ってきてくれるらしいから、飲んじゃうだろうし。」
「料理の対価がワインってこと?」
裕二が苦笑いする。
「みたいよ。」
「土曜日で高瀬と決めとくよ。高瀬が一番忙しいからな。」
自動車販売店の技術部の主任をしている高瀬は休みが少ない。社員の入れ替わりが激しいから、自然と一番上になってしまったと愚痴っているが、車が本当に好きらしく彼は仕事を離れても車をいじっていた。
「何作ろっかなあ」
少しワクワクした気分で呟くと、裕二が「角煮食べたい。」とリクエストしてきた。
「ワインだから、イタリアン中心にしようかと思ってんだけど」
と素っ気なく言うと、ちょっと拗ねて残り少なくなった肉じゃがを頬張っていた。
「角煮は何でもあうだろ?」
「そうだねえ」と気のなさそうに答えたが、豚の角煮をメニューに加えることを決めた。

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