私の中にあるもの 25

翌日は晴れ渡った空に誘われてお昼は川沿いの公園で食べることにした。私は自分で用意したお弁当、宏美はデリバリのお弁当を手にベンチとテーブルが屋根の下に設置されたスペースを陣取った。
仰ぎ見るとその先には全く雲がなかった。
私のお弁当を遠慮なしに覗き込んだ宏美は一人頷きながら言った。
「土曜日のご飯が楽しみー。」
「ご飯じゃなくておつまみだよ。」
今週の土曜日に、宏美発案の『神崎さんの手料理を食べる会』が開かれる予定だ。宏美が気まぐれに思い付いてからもう2ヶ月以上経っていた。その間に年度が変わり、裕二の職場も裕二の友人で宏美の彼氏でもある高瀬の職場でも退職や就職があった関係で二人のスケジュールがなかなか合わず、全く職場に変化のなく時間に余裕のあった私たち、特に宏美はやきもきしていた。
ただでさえ会う時間のない宏美と高瀬なのにこの1ヶ月ほどはまとまった時間を二人で過ごしていないようだった。
「せっかく高瀬さん休みなのにうちに来ないで、二人でデートする方がいいんじゃない?」
「いえいえ、ふたりとも久々のイベントって感じで期待してるんですよ。」
「大袈裟ねえ・・・。」
苦笑いを浮かべながらも、誉められた自分のお弁当のおかずを満更でもない気分で眺めていた。
「それに、二人じゃない方が気楽な時もあるし。」
声の調子に今までなかったような蔭を感じて、ふと視線をお弁当から宏美の方に移した。宏美も私のお弁当の方をぼんやり見ていたが、私の視線を感じると、にっこり笑って顔をあげた。
「神崎さんとこだってたまには邪魔者がいてもいいでしょ?」
「邪魔者って・・・」
先ほどのあまり見ることのない宏美の表情に返事が遅れそうになったが、宏美の何事もなかったような今の表情に会わせることにした。
「こっちこそワインともども大歓迎よ。」
「ワインだけ受け取ってさよならーとか言わないでくださいよ!」
「それもいいかもー。」
私も宏美もいつものノリに戻って、土曜日の予定について話を続けた。
宏美と高瀬は会えなくてもうまくいっているものだとばかり思っていたが、意外とそうでもないのかもしれない。会っている頻度だけを見れば確かに順調とは言い難かったが、高瀬の話をする宏美からは、これまで不安を感じさせるような要素は全く見受けられなかったし、何より、連絡はきちんととっていることが分かったから、ほとんど会っていないと聞いても特に心配していなかった。
でも宏美が表に出してこなかっただけで、彼女も悩んでいることがあるのかもしれない。
会えないことを笑いのネタにしてしまう宏美に現状を苦労なく受け入れていると思っていたが、自分にはたっぷり時間があるにもかかわらず、恋人に会えない状態を簡単に馴染んでしまえるはずがない。
一瞬見せた儚い表情が彼女の本心なのかもしれないということに、気付かずにいた自分を情けなく思ったが、かといって急にそのことについて言及することも宏美が平常に戻ってしまうと、できるものでもなかった。

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