私の中にあるもの 28

「なんか久しぶりだな。」
さっきまで私が考えていたこととほぼ同じ言葉だったが、裕二の言葉が休日に一緒に過ごすことを指しているのか、それとも繋がれた手を指しているのか分からなくて曖昧な返事になってしまう。
「最近忙しかったからなあ。」
どうも手を繋いでいることではなかったらしい。思い返してみると、裕二も私も人前でベタベタするのは好まなかったから、昼間に手を繋いでいることは久しぶりというよりは、初めてのような気がしてくる。
「ずっと忙しいの?」
「5月入ったら新採も夜勤はいるから、マシんなるよ。」
店内に入り、裕二がカートを取りに行った時に繋がれた手が外れたが、裕二の押してきたカートに私が買い物かごを入れると、また手を握られていた。久しぶりに外を二人で歩いている上に滅多にないことをされているせいで、妙に気恥ずかしくなってきて、隣を見ることができなかった。
つきあい始めたばかりでもないのに何を照れてるのよ、と平静に戻ろうとすればするほど、ぎこちなくなってますます顔を向けられない。そんな私の様子に裕二は気づいていないのか職場での話を続けていた。
「主任になったから給料も上がってるし、今月は夜勤しまくりで手当て期待できるよ。」
4月に入ってからは裕二の夜勤が激増したせいでお互いの生活リズムがほぼ逆になってしまい、顔を合わせてゆっくり話をすることもできないような状況だったのに、それでも二人の関係に危機感を持つことは全くなかった。そう、一人エッチに関する独り相撲を除いては。
裕二が夜勤に勤しむ一方で、私はほぼ定時あがりだったから、裕二が昼間家にいる時はできるだけ昼食と夕食を用意していた。すると彼も食事後には必ず感想とお礼をメールしてくれる。内容はまあほぼ決まって「今日もおいしかった。」なんだけど、目新しいメニューに対して「これまた作って」というリクエストがされることもあって、勤務中に読むメールについ頬の筋肉が緩んでしまうのを宏美に指摘されてしまうのだった。
そして帰宅すると、きちんと洗われた食器類や、朝よりきれいになっている室内に気付き、顔を合わせなくても裕二が変わらずに二人の生活を大切にしてくれていることをじっかんする。
だから私はずっと安心していられたのだ。同じ家に住んでいてもすれ違い始めれば物理的にも心理的にもどこまでもすれ違ってしまう事を身をもって経験した私がこの状況に全く不安を感じずにいられたのは裕二の気遣いのお陰だと改めて認識した。
自然と裕二の手を握る指に力がこもっていた。
何かとこちらを向いた裕二に、にっこり笑いかける。
「豚バラ肉買わなきゃね。」

いつもならここぞとばかりに商品棚を見て回るところだが、今日は帰宅してからの準備が待っているので、後ろ髪をひかれるように店を後にする。そんな私の心境に気付いたのか、裕二は帰る車の中で5月に入ったら休みも増えるからもっと来れるよと言ってくれた。

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