私の中にあるもの 30

「いやーん!」
「すごすぎる!!」
料理を運んでいくたびにあがる歓声。
約束の時間に少し遅れて高瀬と宏美が赤と白のワインをそれぞれ1本ずつとその他にもかなりの量のアルコール類を重そうに抱えてやって来た。
密かに心配していたのだが、全く杞憂に終わるほどの二人のテンションに苦笑してしまう。もちろん二人の性格からして双方の関係が危機に面していたとしても表向きの表情を隙なく装うに違いないということは容易に予想できたが、それでも安堵してしまうのだった。
「ほんとどれもおいしい。」
「毎度ながら恐れ入るよ。理絵ちゃんの作る物には。」
並べた料理をひととおり口にして、ふたりとも感嘆の声を上げた。
「お褒めいただき光栄です。」
おどけた口調で答えてから、裕二の中身の少なくなったグラスにビールを注いだ。私と宏美はワインを、高瀬と裕二はビールを飲んでいた。この4人なら、アルコールに最も弱いのは間違いなく裕二で、乾杯をしてから30分でもう既に顔が赤らんでいた。
宏美がお手洗いのために席を外したときだった。最初に並べた食べ物はあらかたなくなり、そろそろしめのパスタを用意しようかと思っていた。
「理絵ちゃんってほんと料理上手だね。」
「そんな大したことないですよ、半分趣味みたいなもんだし。」
「いやーかなりすごいと思うよ。」
「そうですか?」
「ほんと、料理以外もぬかりないって感じだし。理想だね!」
誉められるのは悪い気はしないが、絶賛されてしまうと居心地が悪くなってくるが、かといって必要以上に謙遜するのも嫌みになりそうだと思いとりあえず笑っておいた。
「なあ、裕二、お前もいつも言ってるじゃん。理絵ちゃんは尽くすよーって」
「あ・・うん、まーな。」
高瀬に急に話をふられて焦ったのか裕二の答えはちょっと間があいた上に歯切れが悪かったが、そんな裕二の様子は気にも留めず、高瀬はまた私に向き直った。
「こいつね、理絵ちゃんのこと俺にはもったいないってのろけるんだよー。」
「え・・・はあ。」
私も歯切れの悪い返答になってしまう。常なら耳に入ることもないような裕二の気持ちを知って正直なところかなり嬉しいのだけど、裕二もそこにいてやりとりを聞いていると思うと気恥ずかしくて素直に喜びを表現することができなかった。裕二の方を目の端で窺うと、本来伝わるはずのないことを目の前で暴露されてしまったことに、ほろ酔いの顔を更に赤らめて高瀬の方に身を乗り出していた。しかし、高瀬は素面のような顔色だったが意外と酔っ払っているのか、それともこのノリが素なのか、楽しそうに言葉を繋いだ。
「綺麗だし、仕事も完璧、家事も完璧、夜も尽くしてくれるってねー。」
「おいっ、高瀬!」
裕二が高瀬の膝を正面から小突いて睨み付けた。高瀬は余分な一言にやばいっという顔をしたがそれも一瞬ですぐにニコニコ顔に戻っていた。
「いやほんと裕二が羨ましいよ。」
夜ってなに?セックスのこと?
固まったままの半笑いの表情で返事もできずにいると、高瀬がワインのボトルをこちらに向けて掲げたので条件反射のようにグラスを差し出していた。
赤い液体はちょろちょろとグラスの3分の1も満たさないところで途切れてしまった。
「あれっ?もうないんだ、ごめんねえ。」
「えっもう?」
高瀬がボトルを持ち上げて軽く振っているところに宏美が戻り、ワインの次に何を飲むかという二人のやりとりで先程の軽い緊迫感は霧散していた。
裕二は私の様子を窺っているのが気配でわかったが、目を合わせることもできないまま飲み物の補充とパスタの用意を口実にキッチンにさがった。追いかけてきた宏美にビールやカクテル、チューハイの缶を数本と新しいグラスをお盆に載せて渡した。
「他に手伝うことあります?」
「うーん、パスタ湯がくだけだから大丈夫かな。ありがとう。」
ソースは予め用意してあったから、湯が沸騰するまでの間キッチンに立っている必要もなかったが宏美だけリビングに戻ってもらった。

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