私の中にあるもの 36

洗い物を終えて、リビングのソファーに腰を下ろした。私が洗い物をしている間に裕二がリビングを片づけてくれたらしく、さっきまでの雑然とした散らかり具合が元通りになっている。テーブルの上もビールの滴やソースの油分が綺麗に拭き取られて表面の光沢が気持ちいい。
こうしてテレビもつけないままでいると、さっきまでの喧噪が嘘のようだった。
裕二はシャワーを浴びている。食器洗いを手伝おうと裕二は申し出てくれたが、明らかに睡眠不足の色が出ている顔に構わないから先にシャワーを浴びてきなよ、と言うと素直に浴室へ行った。
あの後、高瀬と宏美は最後まで賑やかだった。
うっかり終電の時間を逃しそうになり、二人は慌てて部屋を後にした。宏美はタクシーで帰るから後かたづけだけはしたいとかなりこだわっていたが、私は人に台所を触られるのは余り好きじゃなかったので、気持ちだけありがたくいただくことにして追い立てるように帰ってもらった。
テレビでも見ようかとリモコンを探すと、テレビの上に置かれていた。裕二が片づけるときに置いたのだろう。立ち上がるのも億劫で、テレビを見るのは諦めた。午前0時を回っている。
体もだるいし、頭も重くなってきた。
そういえば今日は朝からほぼ休む間もなく動いていたのだった。
ふと、アルコール臭のチェックとふざけ合っていて裕二との距離が縮まった時に一瞬考えてしまったことが蘇ってきた。
このままキスしたい。
もちろん思っただけで実際にはしなかった。少し離れていたとはいえ高瀬と宏美がいたのだから。
「やっぱり酔ってるのかも・・・」
あえて声に出して呟くと、ごろんと寝転がった。
二人で過ごす久しぶりの休日。裕二は普段よりも傍に居ようとしていたような気がした。
照明の光が目に眩しくて、瞼を閉じる。瞼から透けて見える明るい光に思考が少しずつ拡散していくようだ。
今夜はセックスするんだろうか。キスしたい。抱き合いたい。でもそれ以上は気がすすまない。
どうせなら口だけでいかせてあげるのに・・・。
でも裕二はそれを嫌がる。どうして面倒なことをしたがるのかな。
今日は裕二も疲れてそうだし、もしそういうことになったら、フェラで最後までしてあげよう。

体の至るところを撫でられている。目を開けようとしたができない。唇に密着しているものが人の唇で、そこから舌が差し込まれていることに気付く。
自分以外の舌の動きにいつのまにか自分の舌を合わせて動かしていた。
もう条件反射になっている。目を開けることができなかったのはキスをしていたからなんだろうか。
なにかいつもより性急だけど、裕二のキスだ。
胸と秘部を触られている。唇が私の唇を離れ、首筋に降りてゆく。
気付けば瞼を開いていた。ただ、目を開いてもほとんど変化がないくらいに暗く、自分の胸元にあるはずの頭も輪郭しか判別できない。
胸の頂を嘗められている。裕二以外とこんな風に抱き合うことはないから確かめる必要もないのに、私はどうしてもその人が裕二であることを確認しなければならないように思えた。
執拗な刺激が私を苛むのに耐えられなって、体をよじろうとするが、金縛りにあったように動くことができない。
もうやめてと言いたいのに言えない。
裕二と呼びたいのに呼べない。
なのに、喘ぐ声だけは聞こえる。私が出しているはずなのに、誰か別の他人が出している声を聞いているように思える。
しかし与えられる触感は確かに私の中に強烈な快感を呼び起こそうとしている。
「理恵。」
裕二が呼んでくれているのに返事もできない。
「理恵。」
名前を呼ぶ声は確かに裕二なのに、胸をしゃぶられている感覚は途切れることがない。私の上に被さるように体を押しつけているこの人は裕二ではないのだろうか。
怖い。
だれ?
やめて。

「理恵、理恵?」
頬をつつかれて目を開く。タオルを首にかけて覗き込んでいる裕二の顔があった。
明るい空間に瞼がしょぼしょぼした。
「ゆうじ・・」
「どしたん?一瞬で爆睡してた?」
裕二がソファーの側に膝をついて屈み込んで私の頭を撫でた。
夢か・・・。
それまで感じていた体の呪縛が忽ち解けていくことに安堵して、裕二の方に顔を向けた。まだドライヤーをかけていないのか髪の毛は濡れていて、タオルで拭きっぱなしたままであちこちにはねている。
「まだ寝ぼけてる?」
裕二は微笑んで私の頬に添えた手の親指を少し動かして唇を掠めるように撫でた。その感触に先程までの夢の内容がその生々しい感触とともに蘇り、衝動的に体を起こしてしまった。裕二が驚いてのけぞった。自分の着衣に乱れがないことを確認し、あれが夢の中だけで起こった出来事でしかなかったことにほっとして、顔を向けると裕二はぽかんとしていた。
「どしたん?」
「ううん。なんか変な夢みたいなの見ちゃってたみたい」
その内容を聞きたそうな裕二には気付かなかったことにして、勢いよく立ち上がった。
「シャワー行って来るね。」
気恥ずかしくて裕二の顔をまともに見られず、俯いたまま着替えを取りにリビングを出た。

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