私の中にあるもの 37

シャワーを浴びてから寝室に戻ると裕二は仰向けでぐっすりと眠っていた。いびきはかいていないが、長いスパンで呼吸している。
やっぱり疲れているんだな。
ベッドにあがり、後から来る私のために灯された豆電球の薄暗い明かりに映し出された裕二の寝顔の上に屈み込む。10センチの距離まで接近しても変わりないのを確認してから、そっと唇を合わせた。
すぐに離すと、裕二の寝息は途絶えることなく続いた。
ほんとはちゃんとキスしたかったのに、妙な夢に平静さを失ってその機会を逸したのは自分のせいだから仕方がない。ベッドから降りてスイッチをひねると、豆電球が消えて真っ暗になった。何も見えない中、勘を頼りにもう一度ベッドに上がろうとして足を止めた。
暗闇の中で裕二の寝顔をじっと見る。目が慣れてくるとカーテンの隙間から漏れてくる街頭の光が完全な闇を和らげているのが分かる。息を詰めて裕二の寝顔に顔を近付け、先程と全く変わらない寝顔に覚醒していないことを確認して、私は音を立てないようにゆっくりとリビングへ続く引き戸をするすると開けた。
窓の多いリビングは電灯をつけなくても寝室より明るく、部屋の様子がよく見えた。充電器に立てた携帯を掴んでソファーに腰掛けた。開けると宏美から今夜のお礼のメールが着信していた。簡単な返事を送信してから、コミックサイトに接続する。
ソファーの背もたれに掛けていた膝掛けを広げて体の上に被せ、これまでに購入していた漫画の内の一つを開いた。
うたた寝をする前に感じた眠気は少し眠ったせいか、それともシャワーのせいか、完全に消えていた。ほんとはあのままベッドに入って眠るつもりだったけど、裕二が寝入ってしまっているのを見ると、ひとりエッチをしたくなってしまった。睡眠不足な上にアルコールも入って、きっと裕二は朝まで目を覚まさないはずだ。
携帯の小さな画面の中で男の人は彼女の弾力のある乳房をしゃぶりながら、手は股の辺りを探っている。彼の手がそこに辿り着くと、彼女は体をのけぞらせて声を立てる。
下着とスエットパンツを下げて膝掛けの内で露わになった部分に自分の手を運んだ。そこに指を押し込まなくてもそこが濡れ始めているのは分かった。
先程の夢が目の前で繰り広げられる漫画の中の二人に投影される。夢から覚める直前には自分の体をまさぐる人が誰だかはっきりしないことに対する恐怖でいっぱいになっていたが、思い出すとやはりそれは裕二でしかあり得なかった。激しくてしつこいと言えるほどの愛撫は常の裕二のものとは違ったが、きっとあれは私の妄想がもたらしたものだったのだ。
それにしてもあんな夢を見てしまうなんて、私ってどうしちゃったんだろう?
セックスに繋がるような夢を見たことなど今までなかった。自分の性欲がどんどんエスカレートしていくようで、怖いような気がしたが、今は目の前の快楽を追い求める方が先だった。
私の指はスリットの両脇の双丘をこねる。鈍い痺れのようなもどかしさが次第に鋭い快感へと束ねられていく。
「あっ・・・んーーー!!」
体中の筋肉が緊迫して手さえ動かせなくなった。大きく息を吐いて左手に握りしめた携帯電話を閉じて床に置いた。1回だけでは物足りなかった。
もう一度右手を動かし始める。そこに指を少し入れて溢れる液体をすくい取って陰核に塗って、そこを人差し指の腹で押して捏ねるように弄ると、びりっとした直接的な快感が襲ってくる。
「はっあっあっあっ・・」
あと一押しでもう一度いけそうな気がするのに、もどかしいような所で快楽の波は打ち寄せては引いてを繰り返した。続けてすることは滅多になかったし、したとしてもいつも2回目は中途半端で終わってしまう。今夜も達することができないままなんだろうか。手首の辺りがだるくなってきたが、手を動かすのは止めなかった。下腹部に溜められた熱を解放したくて仕方がない。
「理恵」
突然名前を呼ばれてそれまでの心拍数の高まりとは違う緊迫した動悸が襲う。
裕二がリビングの戸とソファーの中間辺りで立っているのが目に入った。
どうして?
なんで?なんで?
意味のない疑問詞ばかりが出てきて、まともなことが考えられない。裕二がゆっくりとこちらへ寄ってくる。
熟睡していると思って全く考慮していなかった。
まさか裕二が起きてくるなんて。
知られてしまう。膝掛けの下の服を直さなくちゃ。
どうにかしなくてはと焦燥でこめかみがきーんと痛むのに、硬直した四肢は動かせなかった。
裕二が私の足下まで近づいて来ている。私は慌てて上半身を起こし、膝掛けがずれないように手で押さえた。その布の下で衣服類が足首までずり落ちているのを見られる訳にはいかない。
「なに、してるの?」
低くかすれた裕二の声。カーテンにほぼ遮断された外の薄明かりでなんとか判別できる裕二の表情には今まで感じたことのない冷たさがあった。
軽蔑されてしまう。

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