優しい手 7

二人は机の上を片づけて荷物を入れたロッカーに向かった。土曜日の午前中は平日よりも家族連れが多く、ロッカーの奥にある児童用コーナーからは子供の声が漏れてきていた。
ロッカーから鞄を取りだした唯菜は、返却しようと思っていた本がそのままになっていることに気付いた。
さすがにこれらの本を入れたまま歩き回るのは辛いよね。
唯菜はリュックを肩に掛けて立っている俊介に本を返却するから待っててと頼んだ。
「今日は借りないの?」
返事の代わりに帰ってきた問いかけに、唯菜は間の抜けた声になっていた。
「へ?・・・借りようとは思ってるけど。」
「じゃあさ、いま借りてきなよ。」
「でも、借りる本決まってないし、昼から探そうかと。」
「待ってるから、探してきたら?」
俊介の真意が分からなくて、唯菜は戸惑った。昼からなら俊介が勉強をしている合間に探せば、俊介を待たせる必要もないし、なにより、今借りてしまったら、本を持ったまま行動しなければならなくなる。
唯菜の困惑に気付いた俊介は、いやさ、と切り出した。
「ひるめし食ったらさ、うちで続きしない?」
うちって俊介の家?
唯菜は目を見張ってしまっていた。幸い、俊介は唯菜を見ていなかったから、唯菜の驚愕の表情には気付かなかった。
「ここ喋れんから、なんか緊張するしさ。」
俊介は照れ笑いしながら続けた。
「私はどこでもいいけど。おじゃましていいの?」
「いーよ。親いるけど。うるさくないし。」
図書館より俊介の家に行く方がどう考えても親密さが増す。諸手を振って了解!という心境だったが、唯菜は控えめにそうしようかあと了承の意を伝えた。
借りる本を選択するために書架の合間を動き回っている間も、期待と緊張と不安とが入り交じって、並べられた背表紙に走らせる視線も散漫になっていた。半分上の空で選んだ本は家に帰ってみてみると、以前に借りた物も混じっていて、苦笑いしてしまうのだが、カウンターでこれでよろしいかと確認されたときには全く気付かなかった。
家に呼んでくれるなんて、つき合ってるっぽい!
唯菜は自然と緩んでしまう口を平常に戻すのに必死だったが、俊介の前に歩み寄ったときには普段通りの表情に戻っていた。

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